ももんがの病院観察記録 整形外科編

   
 夏の頃から指が痛くなっていた私は、先日いつもの整形外科医院へ行った。
 ここの医師は、実践的インフォームドコンセントを心がけているのか、診察の時に痛いところを押しながら説明するのである。前回、膝の靱帯を痛めたときも
医師:「ああ、これはね・・、ここを痛めると、まずここが痛くなる・・・(ぐいぐいと押す)」
ももんが:「いててて・・・」
医師:「痛いでしょう・・・、そしてその次にはここをやられるんだ・・(ぐいぐい)」
ももんが:「いててて・・・」
医師:「そうすると最終的に・・・・(ぐいぐい)」
ももんが:「い・・・痛いっ・・・」
  インフォームドコンセントは言葉で行って欲しい私である。ラッキーなことに、今回は、指という繊細な部分だったためか、ぐいぐいされることはなかったが、「ばね指」という診断を受けしばらく通うことになった。

    注:ばね指とは、指の第2関節が曲げ伸ばしの際に引っかかってしまう症状で、指の付け根の関節の腱鞘炎らしい。ネットで調べたら、理学療法士らしき人のブログに「ちくわの穴にきゅうりを入れたときに動きが悪い状態」と書いてあった。

 森の「整形外科医院」である。できて間もないので、明るくきれいな病院である。医師は1人だけ。ほとんどはリハビリに通ってくるお年寄りである。夕方、診察時間終了間際に行くと、部活でけがをした中学生とか、若者が多いのだが、朝早くは断然お年寄りの天下なのである。 
  仕事が休みの土曜日、私はがんばって早起きをする。顔を洗うのもそこそこに、もちろんすっぴんで、受付をするために出かけるのである。7時に受け付け開始のはずなのに、7時5分に行くともう人影はなく、受付は30番目くらいになっている。名簿の名前はお年寄り風だ。やはり朝が早いんだろう。どんなにがんばって起きても勝てないはずである。ここら辺は農家の人も多いから、きっと一仕事終えてから来るんだろうな。
  一度帰宅し、犬の散歩と朝食を終え、9時に病院へ。診察開始。受付のお姉さんがリハビリだけ受けに来た人をどんどん呼んで、リハビリカードを渡していく。
受付:「鈴木さん、・・田中さん、・・・・」
たちまち注意される。
患者1:「そんな小さい声じゃ聞こえないよー」
受付:「・・・・。森さん・・・、森さん・・?」
患者2:「ああ、森さんまだ来てないねー?」
患者3:「今日はまだ見てないな。次の人呼んで。」
受付のお姉さんは、常連患者の指示に決して逆らわない。
  奥へ進むとリハビリ室である。ここでは首や腰の牽引をしたり、電気や超音波の治療を行う。椅子に座って待っていると、向かいに松葉杖の若者が立った。私は手が痛いだけなので席を立ち「どうぞ」と言うとお兄さんは「ありがとうございます・・・」と椅子に座ろうとする。その瞬間、空いた席におばあさんが何事もなく座る。おばあさんは私たちの会話も松葉杖ももしかしたらお兄さんの存在すら認識していないのである。見えてるのは空席だけである。沈黙が流れる。「困ったな・・・」と思ってると、そのとなりの40代くらいの男性がすかさず席をゆずっていた。様子を見ていた周囲の人にほっとした空気が流れる。
  リハビリ中も、サロン化した待合いスペースでは、お年寄りの明るい笑い声が響く。
 最近、病院を欠席?している人の健康を心配する人。(病院に来てないのに心配されるのも不思議な話だ)
「最近、小川さん(おばあさん)見かけないけどどうしてる?」
「ああ、あの人、おじいさんが入院して、ちょっとここ休んでるって。」
 やや太めの医師の健康を心配する人。
「先生はこの間ゴルフで腰を痛めたんだってよ。」
「先生もちょっと痩せないとなあ。」
 理学療法士のお姉さんに犬の写真を見せる人。
「これ、うちのチョコちゃん。」
「わあ、かわいい!」
結構深刻な病気の話を大きな声で元気に語るおじいさん。
「それで、おれは先生に手術してくれって言ったんだよ。おれの気に入ってる(主治医の こと?)先生は、その日は来てなくて・・・・。」
 理学療法士のお姉さんはいつも笑顔で感じが良い。私がおじいさんなら孫の嫁に欲しいと思う。
  リハビリが終わり、受付に戻ってくる。支払いの順番を待っていると
「あれー、あんた、陽子ちゃんの妹???」とおばあさんの声。
受付の奥で事務処理をしていた若い女性がうなずく。
「やっぱりー!似てると思ってた。そう、ここに勤めだしたのー、よかったねえ。まあ、 陽子ちゃんそっくりだわー。ほら、池田さんちの娘さん」
「ああ、池田さんとこのねえ・・・」
みんなで「陽子ちゃんの妹」を見る。私も一緒に見る。陽子ちゃんのことは知らないけど。陽子ちゃんの妹は、顔を赤らめてうつむく。他の受付のお姉さんも苦笑。でももちろん誰も逆らわない。
  病院である。どこか具合が悪いから行くのであるが、ここにはパワーがあふれている。