ももんが、箱根へ行く

 ももんが

 箱根へ一泊の旅へ出かけることになった。同行者がやまねでないことが残念ではあるが、今回はあきらめるとしよう。
  朝、最寄り駅へ向かうバスの中でまず驚いた。車内はダークカラーで埋め尽くされている。暗い。女性も半数近くいるのになぜかみんなグレーの服。Gパンに薄いピンクのジャケットを着ている私は異端であった。そうか、もう10月下旬だった。仕事場では日中はまだ半袖で過ごしたりするのに、世間はもうすっかり秋なのであった。
 森の駅に着いた。今日は平日、ダークな人々が改札へ急ぐ。遊びでお出かけの私とは速さが違うのである。なんとかうまく波に乗りつつ、乗り換え2回をこなし、新宿に着いた。
 小田急の改札前に着いたときから、周囲の様子が変わった。お・・遅い。もっと速く動いてくれ〜と勝手なことを思うのであるが仕方がない。ロマンスカーに乗るのは遊びに行く人、しかも平日なので年齢層が高いのだ。人混みをかき分けお弁当を買って、乗り込んだ。 
 ロマンスカーは滑るように出発した。「ロマンス」というレトロな響きが休日を連想する。車内で流れるお知らせの曲も、あのCMの曲である。しばらく窓の外を眺める。道行く人や家並み・・・。小さな飲み屋さん・・。あれ?壁に直接書いてある看板に笑った。そこには「がんばってます スナックけいこ」とあった。けいこさんの人生を思わず妄想してしばし時が流れる。
 箱根湯元の駅に到着。ここではキャリーサービスというシステムがある。駅で宿名を言えば、荷物はそこへ届けておいてもらえるのだ。電車が着いたばかりなので10人以上の列ができている。結構時間がかかる。私たちの前のおばさま3人組は、手続きを終えた後、その場で「私が300円払うわ」「私のかばんが一番大きいんだから私が300円・・」と500円の割り振りを巡って話し合っている。よく喫茶店の出口で見かけるあれである。早くどいてくれ・・・・と思っていると、後ろの若者グループの女の子が「ふう・・・・」とため息をもらした。おばさまはそれに気付かなかったけど、はっと我に返りどいてくれた。同じ遊びであっても動く速さは年令で?違いがあるのだ。
  登山バスに乗り、途中で甘酒茶屋に寄ったりしながら芦ノ湖畔に着いた。関所跡を見学する。実はももんがは箱根に来たのは記憶しているだけで4回目である。しかし、関所跡も次に行った箱根神社も今回初めて行った。同行の夫は、前3回はいったい何を見学したのだとあきれている。海賊船と黒玉子は覚えてるが・・・?。関所跡では、高台が見張り台になっている。中学生のグループが上から「やっほー!」と叫ぶと近くにいた若者は「この言葉、何年ぶりかで聞いたな〜」と感心?していた。
 箱根神社へ向かって歩いていると、犬(トイプードル)を連れた若者カップルがいた。赤い靴をはいている。カップルではなく犬が・・・。歩き方がちょっとおかしい。靴が合わないのか?彼らの後ろを歩き続け、やっと神社に到着だ。手水場で清めた後、ふと見ると、清め方の説明イラストが貼ってあった。「まず、左手を清めます・・・」などと書かれているのだが、なぜかそのモデルの少女が髪の毛をややカールさせた、昔のぬりえ風なのである。しかも、かわいいフリルスカート。なんてミスマッチ!疑問に思いつつ進んでいくが、周囲の人から聞こえてくるのは日本語ではなかった。中国語か韓国語か分からないが、ほとんどが外国からの観光客だった。神社は彼らに配慮して、外国少女風のイラストにしたのか?しかし、同じアジア人。見た目は同じだ。なぜあのイラストなのか?疑問はさらに深まるのであった。
  宿泊は芦の湯温泉。フロントの近くに、中曽根元総理と写った写真と宮家の方と写った写真が飾ってあった。由緒正しい宿なのだな。そういえば、昔友達と泊まった宿は、現皇太子がまだ皇太子になってないころに泊まったという宿だった。建物もとても由緒正しい(古いとも言う)宿だったな。
  翌朝、9時に宿を出発。まずは芦ノ湖の海賊船だ。ここも日本語が少ない。甲板の見張り台で見張りをしている海賊(人形)がいて、みんなそこに上り、下から写真を撮ってもらっている。写真ラッシュも終わったのでそこにずっといたらすっかり寒くなってしまった。船の観光案内アナウンスが微妙にずれている。「右手に見えてきましたのは、・・・」って、もう通り過ぎちゃってるよ。
  船が着くと本来はロープウエイなのだが、現在改装中なので、大涌谷まではバスで行く。運転手さん達が渋滞がどうとか言っている。すぐに説明開始。「上の駐車場が満車になったと連絡が入った。通常その10分後には渋滞が始まる。このバスも予定より5分遅れる。」とのこと。その通りの時間に到着。さすが読みが正確である。
  大涌谷では、一段高いところにある湯気が噴き出している所まで歩く。毒ガスが出ているので立ち止まるなと看板に書いてある。さっき救急車が来ると話題になっていたが、担架に横たわっている人がいた。ガス吸い過ぎ?そんなに危険な観光地なのか?階段を上るのがつらい。足が疲れた。しかし、みんな元気に歩いている。ここへ来てやっと日本語率が上がってくる。しかし、ももんがはここで、ショッキングピンクの洋服のおばさまは日本語ではないという法則を発見した。
 一段高いところでは、あの黒玉子が売られている。1つ食べると7年長生きするというあれである。1袋6個入りで500円。誰もが食べている。「家族の分はいいわ。私だけ長生きすればー」と言っているおばさまから「おいしいねー」とかわいらしく話す幼児まで誰もが食べる。ももんがも買う。玉子を食べなければ・・・という空気がイオウ臭と共に充満しているのだ。その時、発見した。昨日の赤い靴の犬である。飼い主に抱かれて目の前にいるではないか。靴をはくくらいだから当然洋服も着ている。昨日の服とは違う物を着ていた。ももんが、景色を撮るフリをして犬の写真を撮る。(すぐさまやまね・左党両氏に送る。)
  ロープウエイ、ケーブルカーと乗り継いでバス乗り場までやってきた。観光施設を循環するバスだ。途中で公園や美術館などいろんな施設がある。道は急な上り坂である。伊豆のシャボテン公園へ行ったときと同じくらいの勾配である。「星の王子様ミュージアム」では、入り口の所でシャボン玉が大量に飛んでいた。次の「ガラスの森美術館」で降りた。ここは、ガラス工芸品からショップ、レストランなどがある。レストランでは生の演奏を聴きながら食事ができるという。パンフレットを見ると、オープンテラスの小さなテーブルに二人の客が座り、直ぐ横で歌手が歌っている。しかも、カンツォーネ。そんな間近で歌われてのんびりパスタを食べられるのか?是非その様子を見学したかったが、時間が合わず断念した。美術館を見学し終わると、ショップがある。どこの観光地も同じである。順路に従って進むと、だんだん値段が下がってくる。高い順に並んでいるのだ。最後の方では、決して安くなくても安い気がしてくるという心理作戦か?ガラスはとっても綺麗だったが、壊しそうなので購入せずに帰ってきた。
 箱根では、フリーパスを利用した。新宿から箱根へ行き、そこでいろいろ乗り降りして新宿に戻るまでこれ1枚でOKなのである。新宿から箱根湯元の運賃は思ったより安い。3000円以上もバスやロープウエイで使うのか?と「元を取れるのか」的発想に陥るももんがであったが、普通に払うと結構高い。フリーパスを持っていれば交通費は一切かからない。しかも、乗り継ぎなどは係員がちゃんといて、丁寧に教えてくれる。どこかと似ていると思ったら、それはディズニーランドであった。入場券は高いが、入ったらお金はかからない。分からないことは親切に教えてくれる。初めての人にも分かりやすい説明が工夫されている。ここは「小田急箱根ランド」なのである。
  帰りは最新車両のロマンスカー。1両目の前から2番目の席である。窓が大きくて見晴らしが良い。景色を楽しんでいるとすぐに小田原に到着。数分の間停車している。ぼんやりとホームを眺めていると、ホームを男性が走ってきた。そして、写真をばちばちと撮ると、またダッシュで走り去った。すごく嬉しそうな笑顔。電車が好きな人なんだなーと思ってると、彼は直ぐに笑顔で戻ってきた。そしてまた、ばちばちと撮る。そして走り去る。元カメラ小僧は30代後半〜40代といったところか。紺色系のチェックのシャツにGパン。カジュアルな茶色の靴。なぜそんなに詳しく分かるのかというと、ロマンスカーが出発してまもなくすると、彼がやってきて最前列の席の通路でひざまずき、ばちばちと写真を撮り笑顔で帰っていったからである。そしてまたしばらくすると撮りに来た。かれは、この車両の中ほどに座っていたのである。
  ついにロマンスカーは新宿に着いた。降りようとすると、彼は乗務員から座席においてあるお持ち帰り自由のパンフレットをもらっていた。そして、笑顔でパンフレットを見ながらホームを歩いていった。そして、止まっているロマンスカーの前に行くと、また写真を撮っていたのである。かれは一人旅であったようである。いや、もしかしたらロマンスカーでただ往復しただけなのかもしれない。
  帰宅すると犬のももたろうが、大騒ぎで帰りを迎えた。おみやげに黒玉子の最後の1個を食べさせた。犬は人間の7倍の速さで歳を取るらしいので、1個で1年延びたと思われる。私も2個食べたので、寿命は84歳から98歳になったはずだ。寿命102歳のユキ先生におつき合いできる時間も延びてよかった。でも、ユキ先生が黒玉子を食べちゃったらもう追いつけないな・・・・と思いつつ旅は終わった。