浅野浩さんのエッセー 「歌姫・竹下ユキの世界」
浅野浩さんは、埼玉県狭山市のFMラジオ局「FMチャッピー」で「セピア色の風」という番組の
パーソナリティを務めておられる方です。竹下ユキが彼の番組に出演したご縁で、この度の
内幸町ホールライヴに足を運んでくださいました。このエッセーは浅野氏の所属する詩の同人
誌に彼が投稿されたものを転載させていただきました。ありがとうございました。(管理人)

 六月三十日、内幸町ホールで音楽エンターテイメント「幻覚のタンゴ」というコンサートが開催された。「セピア色の風」の梶畑がインターネットで予約してあったので鑑賞できたのである。感謝!(「セピア色の風」から梶畑、深澤、浅野の三人が参加した)内幸町ホールの二百に足らない観客席はほぼ満員だった。思いのほか、若い人が少ないような気がした。ということは、客もまた熱烈な竹下キのファンか多かったのかも知れない。

 舞台にはピアノとテーブルがあり、「ピアノで唄えます」と書かれた看板が掲げてあるのみのシンプルなものだった。客の誰もいないピアノバーで、失恋の常習犯である一人の女が、自分自身を慰める為に歌を歌う。寺山修司の主催した天井桟敷を彷彿させる舞台なのであった。「日本の芸能ビジネスはガキの遊びだ」と平岡正明は言うけれど、竹下ユキはまるで若い頃の丸山明宏〈現在は美輪明宏)そのものを見ているような感じでもあった。人生の倦怠感というか、やるせなさを熱演していたのである。この時点では彼女はすでに単なる歌手なのではなく、芸術家なのである。それもそのはず、彼女はミュージカルにも出演しているのだ。

 竹下ユキは美輪明宏を、そしてライザ・ミネリを既に越えているのではないか?と私は思った。ライザ・ミネリは'72年にボブ・ファッシーが監督した「キャバレー」という映画でアカデミー主演女優賞を受賞した。キャバレーに集まる人々の人生の哀歓を描いた名作、異色のデカダン・ミュージカルである。ライザ・ミネリは、その後もエンターティナーとして大活躍した人だが、現在ではキャバレーとか、マネー・マネーとかいう曲は、ライザ・ミネリの映画版より、宝塚のミュージカルとかで見たり聞いたりという人の方が多いのかも知れない。

 竹下ユキはシャンソン歌手であるが、名エッセイストでもある。夥しい数量のエッセイをインターネットで読むことが出来るし、彼女の歌うゴスペルソング・ポップスにも眼を向けなければならないだろう。いずれにしても紙面が足りない。今後のめざましい活躍に注目していきたいと思う。(氏名敬称略)