| 微 熱 |
オレは途方もなく大きな組織の末端の小さな部署に居る。ボスを筆頭に十人足らずの管理職とその部下で組織されている小さな部署だ。オレもその管理職の一人なんだが大したことはない。他の管理職には数人から十数人の部下がついている者もいるが、オレには一人きりだ。オレの他にも部下のいない奴が二人ほどいるが、奴らはボスの近くでちょこまかと動き回っている。 部署をぐるっと見渡してみると、実にいろんな奴がいる。ボスは最年長で四十五歳くらい、大きな体でいつも熱い激を飛ばしている。みんなボスの機嫌次第で青くなったり赤くなったりで大変だ。オレを含め他の奴らも年齢は似たり寄ったりの四十前後だが、小さな体でちょこちょこ動き回っている奴もいれば、でっかい図体を部屋の真ん中にでんと据え、大勢の部下を動かしている奴もいる。年中帽子をかむりっぱなしの奴もいれば、隅っこの方で小さくなって、暗い顔で地味に静かにしている奴もいる。また小規模な部署とは言っても結構な広さはあるので、うちの部署専属のメッセンジャーボーイが走り回っていたりもする。他に外回り専門の部隊もいるが、こいつらは稀にしか顔を出さず、いつも外を駆けずり回っている。 オレの唯一の部下も、まぁ、かわいい奴だ。オレの下に付いてからずいぶんになるので、互いに少なからぬ影響を与え合う関係にはなっている。ただちょいと気に入らないのは、長い付き合いにもかかわらず全てをさらけ出そうとしないところだ。オレなんか何もかも全部奴にはさらけ出しているというのに。それにちょくちょくボスの顔色をうかがうのも面白くない。ボスの顔色次第で明るくなったり暗くなったりしやがる。でもそこはオレも似たようなもんだから仕方がないか。 オレの所属する組織のすごいのは休みがないってことだ。少々の怪我や病気で休むことは許されない。休むということは組織からの脱落、消滅を意味する。他の部署では良くそんなことを耳にするし、部署そのものが無くなった例も沢山ある。幸いなことにオレの部署は今のところ一人の脱落者もなく頑張っている。たまに新規の奴が配属されたりもするが、ことごとく管理職とぶつかったりして長続きしない。今が不動のメンバーである。 一番危ないのはオレかもしれない。偉そうなことを言ってはいるが、他の奴らに比べれば結構虚弱な体質だ。半年程前、ちょっとした衝突事故に巻き込まれたことがある。大した怪我ではなかったが、事故のショックで脈は乱れるは体温は下がるわで大変な思いをした。それでも仕事を休まなかったがとてもつらかった。 そんな虚弱なオレなのだが、この事故以外はずっと健康で元気にやってきた。ところが今日は体調がすぐれない。微熱がある。と言っても今のところ大した熱ではなく、時折悪寒が走ってぶるっと震える程度だ。ただこのまま放っておいたら大事に至る予感がする。良からぬ細菌が増殖して悪さを始めたようだ。最近背負い込んだウィルスらしいがかなり性質が悪い。刻々と体を蝕んでいくのが分かる。自然治癒を期待してはいるが、それも望み薄のようだ。 そろそろ本格的に治療しなくちゃならないのかな?まだまだ元気に働かなきゃいけない歳だ。簡単にくたばるわけにはいかない。後々尾を引かぬよう、しっかり根絶やしにしなくっちゃ。このまま体温が上がるのを待つのも一興だがちとまだるっこしい。どうせつらい思いをするなら一気に勝負が気も楽だ。どんな治療にしようかな。大旱魃か大嵐、はたまた火山の大噴火なんてえのも効きそうだ。えっ、オマエは誰かって? オレかい?勘のいいアンタならもう分かってるだろ。そう、オレの名は「チ・キュ・ウ」。 終わり。 |