ユキちゃんとゆかいな仲間たち1 |
あるところにユキちゃんという女の子がいました。 ユキちゃんは、歌が大好きです。毎日毎日歌ったり、曲を作ったりして暮らしていました。 ある夜、ユキちゃんが寝ていると急に目の前がまぶしく光りました。 「もう朝になったのかな。」 とユキちゃんが思っていると光のかたまりが言いました。 |
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「いいえ、朝ではありません。あなたにすばらしいものを授けましょう。私の所までいらっしゃい。」 「えっ?どこへ行けばいいの?」 ユキちゃんがたずねると、声は言いました。 「では、道案内にビスケットを・・」 そこで目が覚めてしまいました。 ユキちゃんは考えました。 「あれは、きっと音楽の神様ミネルヴァにちがいない。 きっと歌の好きな私にすばらしい曲を授けてくれるんだわ。」 でも、道案内はビスケットってどういうことなのか、ユキちゃんには分かりませんでした。 「とりあえず、おやつのビスケットを持って出かけよう。」 朝になると、ユキちゃんはポケットいっぱいにビスケットを入れて、 さっそく出発することにしました。 |
ドアを開けると、そこにロバがいました。ユキちゃんはロバが大好きなので嬉しくなりました。 でも、いまから出かけなければいけません。 |
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遊びたいのをがまんしてバイバイ・・と手を振ると 「ちょっと待ってよ。ぼくを置いていかないで。」 とロバが言いました。 「あなたは、だあれ?」 「ぼくは、馬のビスケット。道案内に来たんだよ。」 ユキちゃんはビックリしました。 目をこすってもう一度よく見ましたが、目の前にいるのはロバです。 でも、本人が馬だって言うんだからきっと馬なんだと思いました。 |
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「ミネルヴァはどこに住んでいるの?」 とユキちゃんが聞きました。 「イグアナ?森に住んでるんじゃないかな?」 「違うよ、ミ・ネ・ル・ヴァ!あなた、ミネルヴァのお使いのロバ・・・いえ馬じゃない の?」 ビスケットは言いました。 「ぼくは、馬のビスケット。リン=カーニン様のお使いだよ。さあ出発しよう!」 ユキちゃんは不思議に思いながらもとりあえずビスケットと一緒に歩き始めました。 「ねえ、そのリンなんとか様ってどこにいるの?」 「リン=カーニン様は、あそこに見える森を抜けて、大きな川を渡り、草原を越えたところにいます。ぼくに任せておけば大丈夫!」 ユキちゃんは行く手に見える大きな森をまぶしそうに見上げました。入っていくのは初めてです。わくわくしてきました。 森の中は、木もれ日がゆれてすみきった風がさやさやと流れていきます。ユキちゃんは楽しくなって歌いました。 ♪ポケットの中にはビスケットがひとつ ポケットをたたくとビスケットはふたつ もひとつたたくと・・・ 「あのさー・・・・」 突然、馬のビスケットが言いました。 「ここはどこか・・なんて分かんないよね?」 「うん。」 とユキちゃんは答えました。 「なんだか楽しくて、夢中で歌ってた。迷っちゃった?」 「実はそうなんだ。ちがう道に来ちゃったみたい。」 「ふーん。じゃあちょっと休憩しよう。わたしおいしいビスケット持ってるんだ。」 ユキちゃんがポケットの中を見ると、粉々になったビスケットが入っていました。 さっき楽しくなって歌ったときに、ポケットをぽんぽんたたいてしまったのです。 「あれれ?もっとたくさん持ってきたはずなんだけど。」 そういいながらユキちゃんが振り返ると、ビスケットのかけらが道に落ちていました。 ユキちゃんのポケットにはあながあいていて、そこからこぼれ落ちたのです。 「大丈夫だよ、ビスケット。このビスケットがあれば元に戻れるよ。ヘンゼルとグレーテルもこうやって家に帰ったんだよ。 ビスケット、道案内はやっぱりビスケットなんだね。」 ややこしい。 |
そんな二人の方へ誰かがやってきました。 「もぐもぐ、もぐもぐ。」 たいへんです。せっかくの道しるべを食べているのはだれ? 「あれ?もうビスケットは終わり?」 そういって顔をあげたのはももんがでした。 ももんがは、お散歩中にビスケットを発見して 1つぶ1つぶ拾って食べていたのでした。 「あなたはだあれ?」 ユキちゃんはたずねました。 |
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「わたし?わたしは、この森のらぶりぃトリオその1、ももんがでーす!」 でも、そこにいるのはたったひとりだけ。ユキちゃんの不思議そうな顔を見て、ももんがは振り返りました。 「あれ?いない。やまねとおこじょはどこ?」 「ここにいるよ、びゅーん。」 とやまねがチョコチョコと走っていきました。 「あの・・・ここ・・。」 おこじょが木のかげから恥ずかしそうに顔を出しました。 「あなたたちが森のトリオなの?」 とユキちゃんがたずねると、ももんがは元気に、やまねは前転をしながら、おこじょは気配を消しながらうなずくのでした。 「なんだかおもしろくなってきたぞー。」 と思ってユキちゃんは言いました。 「わたしたち、リンなんとか様のところまで行くの。あなた達も一緒に行かない?」 ももんがは答えました。 「おいしい木の実があるなら行く!」 やまねは何か叫びながらもう出発しました。 おこじょは小さな声で言いました。 「かくれる木があるなら・・・」 「じゃあ決まりだね。みんなで行こう。」 とユキちゃんは言いました。 「リン=カーニン様はこの世で一番親切な方だから、森のトリオにも授けてくださるかもしれません。」 とビスケットが言いました。 |
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ユキちゃんは、この森のトリオも歌が好きだったらいいなと思いました。 もしかしたら授けてくれるのはこの森のトリオかもしれないと思ったのです。 そうしたら、どろぼうを追い払って・・・。 ユキちゃん、今度はブレーメンの音楽隊のお話を思い出したようです。 森をぬけると、大きな川が現れました。 透きとおったきれいな水が流れています。 でも、どこにも橋が見あたりません。船もないようです。 「しまった。やっぱりこちらの道に来てしまったのか。」 とビスケットが言いました。この川を渡らないと リン=カーニン様の所へは行けないようです。 |
そのときです。ユキちゃんは誰かの視線を感じました。どこだろう?あたりを見回していると、いきなり水しぶきがあがりました。 「あんたたち、何を困っているのさ。」 いきなり顔を出したのは、なんとカッパでした。なんだかとっても頼りになりそうな雰囲気が漂っています。 |
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「あなたはだあれ?」 と、ユキちゃんが聞きました。カッパは答えました。 「あんた、よそものだね。このねねこ様を知らないなんて・・。」 やまねはびっくりしました。 「えっ、ねこ?ぼくはねずみじゃないから間違えないでね。」 ねねこは、それには答えないで話を続けました。 「なんだか困っているようだけど、どうしたんだい?」 ユキちゃんとビスケットが訳を話すと、 ねねこは胸をぽんとたたいて言いました。 「なーんだ、そんなことか。あたしに任せときな。」 そう言うと、ねねこは水の中に姿を消しました。 |
しばらくすると、水の中にお皿が浮かんできました。1つ、2つ、3つ・・・。なんとそれは、カッパ達の頭のお皿でした。 その頭は飛び石のように向こう岸まで続いていました。 |
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「子分達を連れてきたよ。遠慮しないで、 あたし達の背中を渡っていきな。」 そう言うと、ねねこたちは背中の甲羅を浮かべました。 「ねねこさん、ありがとう!」 みんなは大喜びで渡りました。おこじょはちょっと心配でした。 「まさか、いなばの白おこじょなんてことにはならないよね。」 一番重いビスケットが乗ったときは、甲羅は水没しましたが、 なんとか向こう岸に渡れました。 「ねねこさん、ありがとう。」 |
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みんなでお礼を言って、また歩き出しました。おごじょは皮をはがされなかったのでほっとしました。 |
「この草原を越えたらリン=カーニン様に会えるよ。」 とビスケットが言いました。 「でも、急がないと日が暮れちゃうよ。みんながんばって!」 ももんがは言いました。 「おなかがすいて歩けない・・・。」 ユキちゃんは残っていたビスケットをあげました。ももんがはもぐもぐ食べるとまた元気に歩き出しました。 おこじょが言いました。 「隠れる木がない・・・。」 ユキちゃんは空になったポケットに隠してあげました。おこじょはホッとして眠り始めました。 やまねが言いました。 「あれー、みんなはどこ?」 ユキちゃんは草むらの中をずんずん先に進んでいくやまねを抱き上げて、ビスケットの背中に乗せてあげました。 やまねは、ビスケットの背中を行ったり来たりしました。 ずんずん進んでいくと、ビスケットの頭の上に乗って見張りをしていたやまねが叫びました。 「あそこを走っているのはだれ?すごく速いよ。」 みんなで一斉にその方向を見ると、それはだちょうでした。 「おーーーい、だちょうくーーん。」 とビスケットが大声で呼びました。その声に気が付いただちょうはすぐに走ってきました。 「ビスケットじゃないか。何をしているんだい?」 「リン=カーニン様のお使いで、道案内をしてきたんだ。この子達を乗せていってくれな いか?」 「いいとも。」 |
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ポケットの中のおこじょと一緒にユキちゃんがだちょうの背中に乗りました。 ももんがはだちょうの首にしがみつきました。走り出しました。すごい速さです。 風を切って進むだちょうは草の海を駆け抜けていきます。 ユキちゃんが落ちないように気を付けながら振り返ると、 やまねを頭に乗せたビスケットがすぐ後ろを走っています。 「やっぱり、ビスケットは馬だったんだ!」 とユキちゃんは思いました。嬉しくなって叫びました。 「ビスケーット!!」 ももんがはなんだかずっと前にユキちゃんがこんな風にビスケットを呼んだことが あったような気がしました。二人とも今日初めて会ったのに。 「それともこの間見た映画の中かな。」 |
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そんなことを考えている間に、草原の終わりにやってきました。 だちょうはスピードを緩めました。ビスケットと並んで歩いていきます。 |
「さあ着いたよ、みんな。ここがリン=カーニン様のいらっしゃる所です。」 ビスケットに言われて、ユキちゃん達が見てみると、そこにはほらあなの入り口でした。 それも、1つの円い穴ではなく、雪だるまのような形をしています。 ビスケットと一緒に中へ入って行くと、そこには部屋がたくさんありました。 やまねはビスケットの背中から飛び降りるとずんずん中へ進んでいきました。 「わあ、いろんな部屋があるよ。」 そして、ドアに掛かっているプレートを読み始めました。 「すけじゅーる、あとのマツリ、ライヴスペース、えっせー・・・。あっ、リン=カーニンのガラクタ箱。ここだよ、きっと。」 その時です。そのドアがギギーッと開きました。中から出てきたのは、口ひげとあごひげを生やし、めがねをかけた男の人でした。 「ユキちゃん、森のみなさん、遠くまで来てくれてありがとう。ビスケット、だちょうく ん、お疲れ様。」 ユキちゃんは大急ぎで聞きました。 「あなたが私の夢に出てきた光のかたまりなの?わたしに授けてくれるのはなあに? すばらしい曲?それとも、音楽隊の仲間?それとも・・・・。」 すると、リン=カーニン様が言いました。 「あなたに授けるのは、四股です。」 ユキちゃんはビックリしました。なぜ、そんなものを授けてくれるというのでしょう。ユキちゃんは小さな声で言いました。 「あのね、私は今のまま歌を歌って暮らしたいの。お相撲さんにはなりたくないんだけど。」 リン=カーニン様は 「わっはっはっはっは。」 と笑いました。 「ユキちゃん、四股をふむともっと歌うのが楽しくなるんだよ。だからここに招待したん だよ。」 「えっ、そおなの?ちっとも知らなかった。早く教えて教えて!」 そういうと、リン=カーニン様は足を上げて四股を踏み始めました。ユキちゃんも見よう見まねでやってみました。 「そうそう、ユキちゃん。上手な四股だね。」 ユキちゃんの隣には、やまね・ももんが・おこじょが並び、ユキちゃんと一緒に四股を踏みました。 そのまた隣には、ビスケットとだちょうくん。 一緒に四股を踏んでいます。みんなで横一列になり、いつまでもいつまでも四股を踏みました。 ユキちゃんは思いました。 「私に授けてくれたのは楽しい仲間たちだわ、きっと。歌は私が教えてあげれば、きっと どんな大泥棒だって追い払うことが出来る音楽隊になれる!」 |
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